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7/23 繊細な感情の歌

 最近、車に乗るようになったので、車内でかけるBGMを考えるのがすごく楽しいです。イヤホンと重低音のステレオとでは、聞こえ方がまた異なっていていい。時事ネタですが、クイーンのギタリストであるブライアン・メイがファースト・ソロアルバムをリマスターで再発するそうなので、あらためて聞き直してみました。その他、繊細な感情を歌っている歌を選んで、いいなと思うものをここで取り上げてみました。

7/23 繊細な感情の歌

Brian May “Driven by you”

ブライアン・メイ「ドリヴィン・バイ・ユー」

所収アルバム『バック・トゥ・ザ・ライト 〜光にむかって〜』”Back to the Light”(1992)

 

Everything I do I do for you

 

全てを君のために

 

You know I love you but you drive me crazy

'Cos you're saying all the things I want to say to you

Everything I do is driven by you

 

君を愛している けれどもうおかしくなりそうだ

君がいつも僕の言いたかったことを先に言ってしまうから

何もかも君のためにやってるんだ

 

Inner children lost their way

Now they know the price you pay

I'm holding on to life with you

'Cos life without you just won't do

Driven by you

 

僕の中のガキっぽさは途を失い

僕の払うべき代償も思い知った

君といっしょの人生にしがみついてるんだ

君なしの人生なんてありえない

君に搦めとられてる

 

You know we're never going to who’s dreaming

But we're working night and day to make a dream come true

Everything I do is driven by you

 

何をやってるのかもう自分でもわからない

ただ 望みをかなえるために昼も夜も働きづめ

全ては君のためなんだ

 

 ブライアン・メイはロックバンド”クイーン“のギタリストです。バッハのような髪型をしています。繊細な精神と歌声の持ち主ですが、190cmの巨人です。”We will rock you”(応援歌の定番)や”Teo torriatte”(日本人向けに作った曲)などを作曲しました。このアルバムが出た前年、クイーンのボーカルであるフレディ・マーキュリーが死去しました。ブライアンは元々クイーンの曲として“Driven by you”をフレディに手渡しましたが、「これは君が歌った方がいいよ」と諭されたそうです。

“Driven by you”は「僕のすることは君によって駆り立てられている」というニュアンスの言葉で、車のCMソングに使われた経緯もあるため、そこにかけています。

歌詞は、人間関係はすべて相互的で、いわば自発的にやっているつもりのことでも必ず誰かに駆り出されているということであり、だからこそ人間関係の中で人が正しい方向に進むのは非常に難しい、という意味があるそうです。どこか諦念めいた空気も感じます。

 

Brian May - Driven By You (Official Video)

7/23 繊細な感情の歌

Billy Joel “And So It Goes”

ビリー・ジョエル『そして今は…』

所収アルバム『ストーム・フロント』“Storm Front”(1989)

 

In every heart there is a room

A sanctuary safe and strong

To heal the wounds from lovers past

Until a new one comes along

 

人は心の中に誰にも侵せない聖域を持っている

新しい恋人が現れるまで

昔の恋の傷を癒やすために

 

I spoke to you in cautious tones

You answered me with no pretense

And still I feel I said too much

My silence is my self defence

 

僕が慎重な口調で話しかけたとき

君は偽りなく答えてくれたけど

それでも僕は話しすぎたと感じているんだ

沈黙こそが自分を守る手だてだったのに

 

But if my silence made you leave

Then that would be my worst mistake

So I will share this room with you

And you can have this heart to break

 

だけど僕の沈黙が君を去らせてしまったのなら

それは僕の最大のあやまちだった

だから僕はこの心を君と分かち合うつもり

僕の心をいくら傷つけても

君の好きなようにしていいんだ

 

And so it goes, and so it goes

And you're the only one who knows

 

うつろう、時はうつろっていく

それを知るのはただ一人 君だけなんだ

 

 作詞者・作曲者のビリー・ジョエルは“Piano man”や“The stranger”でお馴染みですが、“uptown girl”(最近CMでやってた)や“Sometimes a fantasy”などのキャッチーなメロディーや、ド派手なステージでのパフォーマンスの裏側に、うつ病持ちであるという一面があります。新しく出したアルバムが前作より売れなかったりすると、深く落ち込んでしまうそうです。同アルバム所収の“I go to extremes”で「高すぎたり、低すぎたり、中間がない」と、自身の両極端な性格について歌っている部分があります。……人をあまり信用できないような神経質そうな人間の歌詞。ロックスターなんだから取り巻きもたくさんいそうなものですが、だからでしょうか。

 私も積極的に人と関わるタイプではないので、己と他人とをはっきり区別して、心の中の境界線から内側には人に踏み込ませまいと警戒する気持ちがよーく分かります。人との距離感には義務がないので、それを強要する人にはどうも抵抗を感じるわけです。二人の時は大して仲良くもないのに人前で平然とイジって来たりする人はちょっとイヤなのでそそくさと距離を取ったりします。

 一つの目安として、秘密の共有ということがあります。口の軽い人間はホントに軽い。どんなに人が良くても人間として嫌いです。私がこそっと打ち明けたことをいつまでも内緒にしてくれる人をやっぱり私は信頼します(個人的にはです)。そういうことで二人ともお互いがお互いを尊重している感じがするからです。別に恋愛に限らず、本当の心の距離は、人前でどれだけペラペラ話していても話していなくても特に関係なくて、どれだけ相手に自分を開示出来るかではなかろうかとこの曲を聞いて思います。

 

Billy Joel - I Go to Extremes (Official Video)

 

Billy Joel - And So It Goes (Audio)

7/23 繊細な感情の歌

吉田拓郎『情熱』

所収アルバム『情熱』(1983)

 

一緒に暮らそうと思ったことも

あるけどただ何となく このままの方が

自然な二人の様な 気がするし

別に誰かに迷惑をかけるわけじゃなし

 

お互いに 違う形で

ここまで生きてきて 急に肩を寄せ合えば

しあわせが くるだろうか

 

君は僕の前に 好きだった彼と

今と同じ気持ちに なった事ないか

 

一緒になってあげないからと言って

そんなに深い意味があるんじゃないよ

愛してるって口に出して 言ったりする事は

別れる事よりも 罪深くはないか

 

今はだけど 他の誰かと

過ごしたりするよりも このままでいるだけで

きっと いいんだから

7/23 繊細な感情の歌

吉田拓郎『S』

所収アルバム『王様達のハイキング』(1982)

 

とても長い間 君は

愛なんてウソッぱちだわと

強い女が一番

似合うんだからと

 

意地っぱりでいたんだよね

一人で居る時は

きっと涙も隠して

空を見てたんだね

 

人を信じるって事は

泳げない僕が

船に乗るみたいに

誰にもわからない

勇気のいる事だから

 

 一曲目は見方によっては結婚という選択肢から逃げようとしている軽薄な男の言い訳に見えます。曲調もポップで軽いのがそれに拍車をかける(重々しい曲調で軽い歌詞だと、かえってヘンですが)。ですがタイトルのわりに、冷静な目で自分の恋愛を見ているような気がします。別に無理にくっつこうとせず、おそるおそる二人の間のちょうどいい距離感を測ろうとするのは、中途半端な愛の歌よりも、よっぽど相手に真摯な態度ではないかと個人的に思います。二曲目は、「S」という女性に自分の過去を話しかけるような形の歌詞です。歌詞違い以外には、ライブバージョンしかありません。当時の作者の妻以外に「S」のモデルがいたとされます。閉鎖的で、人間不信気味な私としては、「おまいう」なので、この歌のようにあまり人に本音で話してほしいとか言えないのですが、人を信用するのは、たしかに、本当に勇気がいります。なので私などは別に性格の合わない人と無理に仲良くしなくてもいいのではと思うんですが、社会人なのでそんなことは言えません。難しい。

 前にも書いたとおり、心から信用した人だからこそ、自分の悪い部分をも曝け出すことが出来ます。八方美人は現実的に無理です。「人の悪口を言うな」と口酸っぱく言われますが、私個人としては、自分の評価を気にしなければ別に言ってもいいと思う。愚痴だって言っていい。それで人間の値打ちが変わるなどとは別に私は思っていません。表層部分が変わるだけです(人間の表層と深層が互いに影響しうるという内容のブログを先日、更新したけれど)。どうしても感情のコントロールが効かないときは誰かに対しての罵詈雑言を頭に思い浮かべる時が誰でもあるし、良い部分と悪い部分は誰でも持っている。悪い部分だけを頑なに否定し、言うなとしたところで、臭いものにふたをしているようにしか見えないのは、私がひねくれているからなのでしょうか? 人間の脳味噌自体が臭いものだと認識していないこと自体が、まず欺瞞なのではないでしょうか? 体のいい友達100人じゃなくて、心から本音で語り合える人が(恋人に限らず)一人でもいれば、これほど嬉しいことはないと私は思います。

 

吉田拓郎「情熱」

 

『S』 吉田拓郎

 

 以上の歌は、ただの「愛してる」とか「悲しい別れ」とかの、二極化した恋愛ソングの王道から少し外れた繊細な感情を取り扱っているものを選びました。

 興味があれば、聞いてみてください。